ビリビリ
東京駅に着く。
俺と岳ははぁーとか言いつつバス降りたけど岳が車内に荷物を忘れ取りに戻る。でもう一度降りたらバスのトランク閉まる。あれ?おいおいバスが岳のスネア乗せたまま走り出す!やばいやばい追いかけろ!走って手振って運転席の視界に顔突っ込め!すみません岳のスネアが降ろされていないのだが。プシュー。
サンクス。俺は岳と別れ幸坂の住む高井戸に向かう。
幸坂とは高校で出会った。俺の作った部活に入ってきて結構すぐに意気投合した。はじめの頃は大通公園や喫茶オットーで部活用の映画の脚本を作った。それから毎週団地の集会所でネタ作ったり向かいのコンビニで焼きそばとかペペロンチーノ買ってきて創作論じまくることになり結果10万とかする電子サックスをいきなり買いに行ったこともあった。幸坂はめちゃくちゃバイトをしていた。
17か18の俺と幸坂のファンクミュージック。
よく泊まって深夜になったら俺が具合悪くなって寝た。幸坂は起きた瞬間から寝る瞬間まで完全ニュートラル野郎でそれを自負し、俺含め周りのやつも認めざるを得ない。時によっては頼もしくもあるが俺が具合悪くなって寝るときには必ず舌打ちをする。私欲に対し何一つ厭わず着実に実行反省実行反省してどんどん変な道をめっちゃ姿勢良く走っていく。嘘みたいに飄々とした顔で。
集会所にはナリもいた。ナリは幸坂の友達で知り合った。水木しげるの漫画の世界からふらふら歩いて出てきたようなやつで俺ははじめびびっていた。髪型や顔のパーツはかなりかわいらしいのにそれを完全に打ち消す異様な暗さを纏っていたせいでそのかわいらしさはいかれたコミカルさと化していた。俺にとっては集団行動の場以外で出会うはじめての友達だったからいかにもミステリアスだったし更に目隠しの酔拳みたいに誰もいないところで一人でのらりくらり変な話ばっかりしていたから何なんだよこいつはと思っていた。でもまあ会ったときから一緒にやっていくものみたいな感じだったので多少頑張って話を聞いてみる。そしたら段々ナリの世界が見えてきていつのまにか面白くなってる。で三人で集会所行く。集会所でナリは笑顔の睡眠を繰り返す。起こす。起こせないし怒られる。たまに喫茶オットー。ナリ来ない。寝てる。地下鉄乗って起こしに行く。起こせないし怒られる。
この頃も今もナリは常に金を欠き痩せ細り道理に唾を吐き続けている。
俺はこの先札幌でバンドなんか組めるわけがないと思って二人と上京する算段を立てていた。
出会ってすぐの俺とナリ。
幸坂の家に着いたらまだナリは来ていない。寝てる。俺と幸坂はお腹空いたから焼き鳥を買いに行くことにした。
東京に滞在するときは幸坂とナリのどちらかの家に泊めてもらっている。2人が東京へ越してから何度目の滞在になるだろうか?幸坂が高井戸に越してからは2度目だ。
近所の焼き鳥屋はつくねが美味しいと聞いていたので楽しみにしていたが「肉しかなくなっちゃった」と言われた。全然いい。めっちゃお腹空いた。焼き鳥食べたい。
通りに面した半屋外の焼き台のうえで鶏肉が焼かれている。
店主のおじさんはへなへなしているが話好きなようで他の客が立ち寄るとため口で話しかけていた。俺たちは最低限の言葉を敬語で話した。若いから沢山食べてと頼んだ6本に1本おまけしてくれた。家に着き袋を開けると焼き鳥が9本入っていた。
ナリも来る。夜飯豚汁と焼きそば作って食べようかとなったタイミングで晴人から連絡。友人の家に泊まれなくなり、こっちへ混ざることになった。深夜には阿部も来る。
何か話していたらもう結構時間が経っていて晴人が着くという。駅まで迎えに行き合流。そのまま買い出し。天国旅行は既に幸坂・ナリの二人には会っている。2021年6月下北沢BASEMENT BARでユリナさんと開催した"光源"の夜、勢いだけで全員ナリの家に泊まった。それが初対面だった。
悩みながらも具材とおろし金を買い帰宅。ナリが先導し夜飯作りが始まる。諸々準備を終えたところでナリが締める。そのあいだ俺と晴人はギターとベースだけで合わせてみる。細かいニュアンスが直でわかってワクワクする。面白い。明日楽しみだなあと思う。
豚汁も焼きそばも美味しかった。特に豚汁が美味しかった。生姜が体の芯にぶち込まれた。
阿部が来て起きる。仕事終わりかなり遅い便の飛行機だったので終電がなく、新宿から自転車に乗ってやってきた。ありがとう。
みんなは先に起きてたのか?確か寝てなかったやつもいた。けどよくわからないよく覚えていないがそのとき俺はハッキリと起きていたはずでそこそこ発言した記憶もあるし笑った記憶もある。でもそれしかない。何言ったっけな。でまたいつ寝たのかも思い出せない。めっちゃすっきり起きて阿部起こす。ナリも起きて三人で散歩しに出た。何もなかったけどなんか楽しかった。
帰ったら晴人はまだ寝てて起こす。晴人は朝大体最後まで寝てる。
ドレスコーズと天国旅行だ。俺と晴人は物販の荷物を幸坂とナリに任せ、ギターとベース担いで渋谷に向かった。
まずはUlulU古沢さんに教えてもらい予約した渋谷のスタジオノア2号店へ。道中で岳と会う。着くと既にM・Tがたばこ吸っている。練。肌の上に張ってる薄い膜みたいなものがみんなで演奏するたびにビリビリめくれ上がって恥ずかしいみたいな変な感情になる。気持ちいい。1時間余ったからセッションしてすこし曲やって撤収。クアトロへ向かう。すぐ着く。
本当か。俺は現実で志磨遼平と対バンするのか。何度夢に見た。周囲の景色や人の仕事が現実を固めつけ俺に近づかせる。
無論我々とドレスコーズはなんの接点もなかった。そして突然に来た。すぐにメンバーに電話した。
志磨遼平は、俺が1番夢中になって追いかけた人だ。志磨遼平からいくつ知った。
心臓が爆発してしまうようなものの全てを知りたかったのと同じく毛皮のマリーズ、ドレスコーズ、志磨遼平の全てを知りたかった。わかるか。落書きはいつも同じだった。それでもそのときでもドレスコーズとの2マンなど俺は誰にも言ったことがなかった。
インストアイベントでデモCDを渡したときの後悔が忘れられないでいた。俺は「まだまだ未完成なのですが良ければ聴いてください」とデモCDを渡した。そんな言葉は要らなかった。そんな態度の音楽に俺は興味ない。音楽に未完成なんてない。思い切りやる以外ない。そんなことわかっていた。でも志磨遼平を目前にし怖気付きそんなことを言ってしまった。1番好きな人に1番言いたくないことを言ってしまったのだ。しかも自分にとってこれ以外ないという音楽を渡すときに。
俺はいまこのバンドが心の底から好きだ。志磨遼平に聴いてほしい。ドレスコーズに聴いてほしい。たくさんの人に聴いてほしい。ライブを見てほしい。何より俺が1番聴きたいし俺が1番見たい。
俺は志磨遼平に会った。話を聞いてもらい、話した。ライブを前にして絶対に言いたくなかった言葉がぼろぼろ溢れてしまう。あまりにも優しく話しやすい志磨遼平に対して一瞬間違えて志磨遼平と言いかける。話しているのがそうだ。笑って聞いてくれた。俺に話してくれた。卓上の花瓶のイントロはブランキーだよねと言う。うん、うん、俺はもう何にも言えない。
楽屋に戻って時間を待つ。ダメか?あれ?いや違うな。みんないける顔している。俺も、全部喋っちゃったけど、いけるなと思う。天国旅行の演奏はもう何とも関係なくなっていた。はやくみんなで合わせたくてうずうずした。本当にただそれだけだった。楽屋出て階段あがる。
波乗りジョニーが流れて天国旅行は演奏した。
めちゃくちゃ気持ちよかった。岳、晴人、M・T、俺の天国旅行で演奏できてほんとよかった。それ以外何も言うことがない。こんなに嬉しいこと俺は他にない。
面白い。
ドレスコーズのライブはビューティフルから始まった。おいおいまじか。ハートブレイクマンもやった。Trashも。Trash。オリジナルドレスコーズのロックインジャパンフェスのTrash何回観た。ていうか何回聴いた曲なんだ。かっこよかった。はじめて観た田代さんのギター。痺れた。東京ディスコナイト。すばらしかった。あのベースではじまってステップ踏まずにいられないだろう。
この日のことをいつか忘れてしまうだろうか。忘れたら誰かこれを読んで聞かせてほしい。
終演。HOGO地球や来てくれた友人の数名に会うことができた。みんなよろこんでくれて嬉しかった。携帯見ると阿部から「本当によかったよ 本当に」とメッセージが入っていた。嬉しかった。
ドレスコーズはすごく優しかった。志磨さんはギリギリまで俺に話をしてくれた。そのなかでドレスマグに書いていた文章、例に出したバンドと話題が重なるタイミングがあった。すかさずそれを言うと、よく見ているねえと言ってくれた。とても嬉しかった。連絡先を交換した。うわあ…。ドレスコーズを見送った。
力尽きた俺たちは渋谷のよくわからない居酒屋で割りに合わない金を支払った。俺は2時半まで渋谷にいなきゃいけない。kulakula里空、蓮、エチくんのいる鳥貴族へ移動した。岳、晴人、M・Tも少し一緒に飲み食いした。エチくんがみんなに奢ってくれた。ありがとう。里空に波乗りジョニーは流石におかしすぎると言われる。俺はいいだろと思うし言う。
蓮、岳、晴人、M・T帰る。残った里空、エチくん、俺はカラオケに行った。めっちゃ歌い、連絡を待った。
物販を手伝ってくれた幸坂、ナリは終演後、阿部の運転で埼玉の山岡家へ向かった。帰りに拾ってもらうことになっていた。
迎えに来てもらって大瀧詠一歌いながら帰った。
9時。起きて舞城王太郎「短篇七芒星」を読む。雷撃、代替がめちゃくちゃ面白い。
二度寝。
昼。中華「東軒」へ。前回滞在時にはじめて食べた東軒のなす肉炒めに衝撃を受け、以来ずっとても楽しみにしていた。
なす肉炒め。
全てがあまりにもうまく、席を立った瞬間からもう来たかった。帰って寝た。
会えた友達
やなちゃん、mwmwくのうくん、りくくん、boyhoodヒラマツくん、 UlulU古沢さん、ユリナさん
すごく楽しかった。ありがとう。
吉祥寺で里空とめちゃくちゃした。追々天国旅行の何かしらとして出る。ぜひ楽しみにしていてほしい。天国旅行でカラオケ行った。めっちゃ楽しかった。Love so sweetみんなで回して歌った。
東京滞在最終日は下北沢BASEMENT BARでGateballers、突然少年とのスリーマンイベント「ニューモアニッポン」。
2022年10月「気」の終演後、たまたまその日となりのTHREEに出演していたGateballersの濱野夏耶さんと話せたことからこの日は決まった。ずっとGateballersが大好きだった。そしてGateballersも志磨遼平のレコメンドによって知ることができたバンドのひとつだった。
その場で思いを伝えると、夏椰さんは一緒にライブやろうと言ってくれた。そして本当に一緒にやってくれた。突然少年も加わってくれた。
天国旅行はトリ。
演奏。めちゃくちゃ気持ちよかった。ひとつも悔いなし。もう演奏できない。東京お終いだ。やり尽くした。
HOGO地球ハイパーミリまた来てくれた。ありがとう。最近は東京でライブをしても顔のわかるひとたちが増えてきた。たくさん話せて嬉しい。札幌から見に来てくれたひともいた。クアトロも。みんな俺んち来い。もっと話したい。ソウルかけて踊ろう。スパイス炒飯食え。
ユリナさんがクアトロの波乗りジョニーめっちゃ良かったと言ってくれる。そう言ってくれると思った。夏椰さんとたくさん話せて嬉しかった。突然少年とださんとも。熱い夜だった。
この日だけナリの家に泊まる。ナリは一足先に帰宅していた。
俺が帰ると、ナリは青白い顔で布団に座っていた。
じゃあな。ありがとう。
渋谷の太郎。
帰りの飛行機で三木聡の「亀は意外と速く泳ぐ」を見る。コメダで幸坂、なりと三木聡の話をしていて見たくなったのでダウンロードしておいたのだ。大好きな映画だ。
上野樹里が焼肉食べてるシーンでふと窓の外を見ると夜のなかにぽつぽつと灯りが見えた。地の際でなにかとの接合を待つ機構の灯りだ。
暗くよく見えないがおそらく海に面している地帯で、そこから道路はより灯りの集まる方へ伸びている。
誰かの、なにかの経由地だろう。破壊のうえに存在する人の暮らしの。
俺はそれを暖かいと感じている。育った通りの街路に照らされ歩きたいと感じている。駅前のラーメン屋に行きたいと感じている。ラーメン食いたいと感じている。どうしたい?隣の乗客は、前の座席に挟まっている「PEACH LIVE」を読んでいた。薄手の赤いセーターを着ていた。東京に行くのはもう旅という感じもしない。帰りは単に寂しい。飛行機に乗らなければ東京にいる友達に会えないのは寂しい。東京でも札幌でも名古屋でもまた会おう。すぐにでも。
映像で見た息子はすごく成長しているように見える。たくさん声の出し方を知って、手の動かし方を知って、たくましくなっているように見える。帰ったらもう寝ているだろう。どんな顔で寝ているだろう。息子と妻も今日実家から帰っている。俺も帰ったら寝る。もう荷物は持たない。ひとまず一旦休憩だバカヤロー。
よく聴いた曲
・The Pastels / Check My Heart
めっちゃいい曲。
・The City / Now That Everything's Been Said
キャロルキング。ドレスコーズの会場BGMでかかっていた。終演後に志磨さんから教えてもらった。
・フー・ドゥ・ユー・ラブ / ケチい気持ち
東京にいるあいだ何回も歌った。晴人と興奮した。
・CARTHIEFSCHOOL / sapeur
3rdアルバムから先行配信された。めっちゃかっこいい。